船のよもやま話

船舶に関わる話題

母船式漁業 通信

母船式漁業は廃れてしまった漁業です。それでも素晴らしい漁業であり、日本を支えた産業の一つでした。

200海里問題でその漁業が終息してしまいます。

母船式漁業が盛んだった当時は、トンツーと言われる電信によって通信が行われていました。単音となるトと長音のツーの組み合わせによる通信です。ト・ツーでAの意味になります。各捕鯨船(鯨を捕る船)や独航船(魚を捕る船)に対し母船から指示を出す際もトンツーによって行われていました。

 

ただ、普通に送信してしまうと、他の水産業者・他の船団に漁場がばれてしまいます。魚が集まっている漁場であれば他の船団にバレてしまうと集まってしまい、自分の船団の取り分が減ってしまいます。では何をするのかと言いますと、暗号を用いる事になります。

また、相手の船団でもその暗号解読に躍起します。ブロックのところに緯度経度の数字を書き込み、そのブロックを暗号表に基づき移動させる方式の暗号でした。その暗号表を如何に解読することができるか?それが母船に乗り込む通信長や通信士の業務でした。ですので母船に乗る通信士にとって、普通に通信する事は何でもない事で、暗号解読など普通では行わない事もやっていました。

すごい方になると、その暗号文を頭の中でそのままブロック化しそしてそのブロックパズルを組み立て直して、それを解読し、解読した緯度経度を紙に書き出せる技を持つ人もいたそうです。トンツーだけでも頭が混乱してしまうのにその様な長けたことができる人がいたそうです。その緯度経度を船団長に渡すことまでが通信士の仕事でした。

 

捕鯨母船では年末年始を南氷洋で過ごす事になります。その時、正月のお祝い電報を打つことになり、限られた時間で数百名の祝電を受けたり送ったりと大変な忙しさになったと言われています。また、毎日送られてくるニュースもトンツーで来ました。頭の中で聞き取りつつ、文章になってから、もちろんカタカナでは無く、漢字も混ぜて紙に移し替える作業をしていました。トンツー初心者は一文字一文字書き写すことがやっとで余程慣れていないと出来ない芸当です。

 

日本には銚子に無線局があり、そこが船舶からの無線中継を行なっておりました。ここの通信担当の方は、一般商船の通信より母船の通信の方が聞き取りやすかったと言われていました。確かに数百名の方が乗り組み、絶えず独航船に指示を出したり本社へ連絡を入れたりしていた船の通信士ですので納得できる内容と思えます。

この後、平成の時代に入り、インマルサット(海上衛星通信)などの衛星通信の発達し、普通に会話ができる無線や電子メールが行える様になり、トンツー電信による通信も廃れていきました。そして、

このトンツーによる船舶間の通信方法も今では廃止され、アマチュア無線の方々やごく僅かな一部の漁船で用いられる程度になりました。