船のよもやま話

船舶に関わる話題

位置-測位

現在では、ほとんどの船は、GPS(Global Positioning System)など衛星を用いて、測位を行なっています。

GPSは、アメリカが開発し衛星測位システムです。最近では各国で開発しており、EUによるGallileo,ロシアのGLONAS,中国の北斗があります。

これらの衛星を用いた測位全般を総称してGNSS. 全地球衛星航法システム Global Navigation Satellite Systemと呼んでいます。

 

さて、昔は、どうだったのでしょう。

GPSが確立されていない時、ロラン、デッカ、そして最終を意味するオメガの各種電波航法がありました。いずれも二つ以上の送信局から送信される電波を船にあるアンテナで受信し、その距離を求めることで船の位置を求める方法です。

オメガ航法のための送信局は、使用する周波数が超長波を使用していますので非常に高くなります。日本の対馬にあった送信局は454.83mの高さがありました。GPSの普及で今はもうありません。オメガは、ロランの方が精度が良かった事もあり、ロランで測位が出来ない海域でしか利用されることはありませんでした。

デッカもロランに比べ、精度が悪く、オメガほど遠距離にも対応しておらず、今一つでした。

電波航法のメインは、ロランでした。ロランにはAやCがありました。このロランの送信局もそれなりの高さになり、南鳥島にあったロランC局は、213.4mありました。

 

電波航法・地上局がない時代は、天文航法となります。

加えて、地文航法もありますが、地文航法は、GPS/GNSSが普及した現代でも普通に使用されています。主な地文航法は、クロスベアリングが主とも言えます。海図に記載されている山頂や灯台など目標物の方位を測り、海図上にて、その計った目標物からその方位(ベアリング bearing)を線で描く事で船位が分かると言った物です。二つ以上の目標物の方位を測ると海図上ではそれらの線がクロス(cross)・交差します。その交差した所が船の位置となります。

あとは、レーダーを用いて浮標や岬などの距離を測るなどで位置を求める方法があります。レーダーも電波使用するのですが地文航法に属します。

 

地文航法は、陸が近い沿岸域であれば良いのですが、陸が見えない海域に出てしまうと位置がわからなくなります。

この時、どうしていたのでしょう。

 

昔は、天文航法が主流でした。

太陽や星の高度を測ることで船の位置を求めていました。

さて、測位とばかり書いていましたが、船の測位はどこの国の何県の何々市にあるなんとか町一丁目と言った住所を求めるのではなく、緯度軽度で位置を求めます。

緯度や経度などあまり聞き慣れていないと思います。北極点は北緯90度で、南極点は南緯90度となり経度は無いはずですが経度0度にしている様です。なお、緯度0度は赤道です。

北緯言わずもがな赤道より北側ですし、赤道より南南緯と呼びます。普通一般の地図では北が上、南が下になっています。オーストラリアでは逆の図が売られている様ですが。

海図では、上が北です。

経度はどうでしょう。赤道と直角に交わる南北の線を子午線とよんでいます。

子午線の基本となる線は、グリニッジ子午線です。英国ロンドンにある町グリニッジにある天文台を基準にしていました。

なおグリニッジ天文台がある丘を下ると国立海洋博物館や帆船カティーサークがあります。

グリニッジ子午線は、最近まで、基準の子午線でしたが、今はグリニッジ天文台の基準ちから東へ102m移動したところにあるIERS基準子午線が基準の子午線になっています。

グリニッジ子午線からIERS基準子午線へ変わったのは測地系の違いが理由です。

日付変更線は基準子午線の反対側にある線です。子午線と書きたいところですが、子午線上に国が存在しているのでその国を避ける様に、日付変更線が定められています。

日本の基準子午線は東経135度になっています。135は中途半端な数字に思えますが、経度としてはとても区切りが良いのです。

経度360度を1日に当たる24時間で割ると15になります。1日ぐるっと回る時間は24時間です。地球は球体なのでぐるっと回る角度・経度は360度になります。

135を15で割ると9になります。英国より日本は東に135度ずれたところにあります。そして、時差は9時間あるとされています。この9時間は緯度の差を表しているのです。日付変更線がある東経西経とも180度の子午線上のところでは、英国と12時間の違いがあります。日本とは3時間(45度)の違いがあります。135度足す45度で180度となり、日付変更線の基準となる子午線の経度となります。

船は経度15度進むたびに、船内の時刻を1時間進めることになります。逆に西へ15度進むと1時間遅らせる事になるのです。

すなわち、時間と経度の間に関係性があります。

 

その関係性を元にして、星や太陽などの高度と時刻を測ることで、位置を求めます。船の世界では、それを天文航法とよんでいます。

時刻を正確に測定できていなかった時代は、経度のずれが大きく、それにより多く船が難破していました。

緯度は、北極星や太陽などを計測することで簡単に求めることができます。

一方経度は、正確な時計が無いと測位する事が非常に難しく月による星食などでしか求める事ができませんでした。

そのため、推測航法に頼っていました。推測航法とは、風や強さで、速力などを計測し、船がどれほど進んだか推測し、それを元に仮の位置を求めて使用する方法です。

この様なやり方では、難破も当たり前の時代でした。

 

この測位に力を注いだ国が英国でした。

1700年ごろ、英国軍艦4隻が難破し二千人に及ぶ乗組員が無くなりました。

当時の英国議会は、船の経度を正確に確定する方法を考えたものに対し巨額な懸賞金を与える事にしました。

ハレー彗星で有名なハレーや万有引力を見つけた有名なニュートンも経度の求め方を研究していました。彼ら学者派は、天文を計測し測位する方法に固執していました。正確な時計を作るよりは、月や星、月食、日食そして木星の衛星を計測することの方が簡単と思っていたのです。

正確な時計が有れば、勿論正確な経度を求める事ができるぐらいのことは、彼らも知っていました。でも、その正確な時計を作ることは永遠に無いと思われていた時代だったのです。当時の時計のほとんどは振り子式であり、揺れる船上では役に立たなかったのです。

 

木工職人のハリスは、マリンクロノメーターを開発しました。日本名では経線儀と呼ばれています。今で言う時計です。

ジョン ハリスは、30年以上の歳月をかけ、4つの経線儀を作り正確な経度を測定出来る様にしたのです。

一つ目の経線儀でも十分な測位を求める事ができましたが、より精度が高い物を目指していました。精度と共に小型化も図りました。

懸賞金は、ハリスに与えられましたが、時計が出来てから、天文学者達から、中にはあのニュートンなどから嫌がらせを受け、なかなかというか全く経度委員会で認めて貰えませんでした。経度委員会の主たるメンバーは天文学者でした。彼らは、木星の衛星や星食を推していたので、時計による経度を求める方法を認めたくなかったのです。ジョージ三世がそれを知って、ようやく80歳の年齢で懸賞金を貰う事ができたのです。一つ目の経線儀が完成してから38年経っていました。

 

これを元に経度を求める方法として、時計を用いる事になり、今の天文航法の元になったのです。GPSが出る1990年ごろまでこの方法が普通に使用された方法です。船だけでは無く飛行機もこの方法を用いられたのです。