船のよもやま話

船舶に関わる話題

ミジップ

midship ミジップは、「舵戻せ」である。

舵戻せもよくわからない言葉でもある。

 

舵を中央に戻せ、という指示・命令であり、ポートやスターボードと舵を切った後、舵を元の中央に戻す際にかける言葉となります。

 

大きく回答する際、例えば左に回頭(曲がる)するとき、ポート(左)に舵を切るわけですが、目的の方位になる前に舵を中央に戻します。

そうしなければ船はずっと回り続けます。

 

実際には、目的の方位になる前に逆方向へ微妙に舵を切り、回答する力を無くすことを行います。これを当て舵と言います。この当て舵を上手く行えるかどうかが操舵手の上手い下手につながります。

 

一連の号令(命令)としては、北(0度)に向かって走っていた船を東に向ける際、まず船長は舵を右・スターボード・面舵に切ります。

操舵手は、スターボードと復唱(アンサーバック)した上で、舵輪を右に回します。

舵が右15度になった時点で「スターボード サー」と「サー(sir)」をつけて舵が右15度になったことを船長に伝えます。

そして、船首方位が10度20度とか45度NE (NORTH EAST)になるとその時の方位も伝えます。70度ぐらいでミジップと船長が指示を出し、ステディ90度といった具体的な方位も指示が出ます。

操舵手は、ミジップと言った後、ステディ90度とアンサーバックし、舵を一旦中央に戻した後ミジップ サーと報告した後、当て舵としてポート5度(左5度)ぐらいを切った上で改めて舵を中央に戻し、微調整に舵を切りつつピタリと船首方位を90度に持っていきます。

船首方位が90度で安定すれば、船長に対し、ステディ90度サーと報告する事になります。

当て舵まで指示する船長や航海士はなかなかいません。ミジップと舵を戻させてからステディ何度と目的の方位を伝えますその後は操舵手の力量です。 

 

舵取り

軍艦の艦長や大きな船の船長は、まず、舵を握りません。

 

当直に入る航海士も余程で無いと舵を握らない。

舵を握るのは、「操舵手」(そうだしゅ)と呼ばれる人となります。クォーター マスター quwater masterとも呼ばれます。

 

余程小さなボートでない限り、普通の船には、オートパイロットautopilotと呼ばれる装置があるので、舵そのものを握ることはありません。

出入港や狭い航路の時など特定の海域に操舵手が舵を握り、船首方位を一定に保つ作業を行ないます。

 

この時操舵手が勝手に舵を切る事はなくて、船長や航海士の指示に従って、舵を切ることになります。

この時、船長はポートやスターボードと号令詞をかけることになります。

 

ポートやスターボード以外にステディーsteady という号令詞もあります。

通常、ステディー90度といった様に用います。この意味は船首方位を90度に保て。という意味になります。

日本語では、「宜候 ようそろう」となります。

 

超大型船 マンモスタンカーでは、舵を切ってから10分以上経たないと、曲がってくれません。

数km 進んでからようやく曲がるので、非常に厄介です。

レーダーや双眼鏡で、他船を見つけるとすぐに回避動作に移らないと、衝突してしまいます。

ですから、大型船はなるべく船が多くいるところを避けて航行する事になります。

それでも回避する場合、急激にな回避は、無駄な燃料を使う事になるので、やんわりとかつ相手の船にわかる様に回避する事になります。

 

この時当直航海士は、レーダーや目視で状況を判断し、舵を握らず、オートパイロットの方位設定のボタンをピッピッと押して船首方位を数度変更します。

 

一定の針路を保つことは結構難しい事になります。下手な操舵手が舵を握ると船は蛇行する事になり、直進でない分無駄な燃料・お金を使う事になります。操舵手が舵を握るより、オートパイロットの方が無駄なお金を使いません。そもそも、現代の操舵手は別の仕事も結構あるので、船社はずっと舵を握らす様な無駄な事もさせません。船にとって船舶の整備や前方監視の方が重要です。

 

内航の小型の船では、乗っている人が少ないので、操舵手がおらず、船長も当直に入りますし、普通はオートパイロットですが、船舶が多い海域では船長自ら舵を握ったりします。

 

海上自衛隊や軍艦では、逆に人がたくさんいるので、オートパイロットを使わずに、航海員と呼ばれる職種の人が絶えず舵を握っています。

 


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シーマンシップ

シーマンシップについては、当時、航海訓練所と呼ばれていた運輸省機関の練習船に乗ったとき教わった。

 

言葉的には商船学校時代にもちろん知っていた。スマートで目先が効いて几帳面これぞ船乗りもある意味シーマンシップの教えの一つだと思う。

 

操船や航海技術などの意味もあれば、スマートでの様な精神的なものもある様に思える。

シーマンシップは、漁師や商船乗りには当てはまらないが武士道騎士道的な海版の様な気もする。

 

個々のシーマンシップは、海の上で形成される。と思う。

絶えず揺れている環境で、風雨に風雪にあたり、あるいは嵐に遭遇しその怖さを実感し、見渡す限り海の上で、電話もかけられず、最寄りの陸も10日以上かかる様な不便極まりないところで団体生活を強いられ、その中でお互いを尊重し、意見が異なったり、理不尽な要望や指示に従い、喧嘩もしなければ不服も言わない、言わせない船員を育てる。そうでなければ、船が沈む。と言った事につながると。教育を受ける。

 

船の中では、秩序を守らせるという事は重要であり、必要な事でもある。

無理をさせない様にすることも教育される。

ゴリ押ししないということである。

早く入港する為、台風の中を航行するとか、列で連なっている挟水道に横入りなどの卑怯な真似は起こさせない様にすることである。

 

そういった教育を受けたためか、自分さえ良ければ良いという様な考えになかなかならない。

例えば、些細な事であるけれど、待ち合わせに遅れるとか、ちょっと出来ない。

 

 

スマートで 目先が効いて 几帳面 負けじ魂 これぞ船乗り

昔、帝国海軍の太田質平さん、少将が作った船乗りのモットー。

 

今でも、海上自衛隊や商船界隈で、受け継がれています。

 

スマートは、痩せていると言った容姿ではなく、利口の意味だそうです。船乗りたるもの、スマートな身の振る舞いを行えとも言われ来ました。

でも、海上自衛隊の方は、優秀な方がいるかもしれませんが、船乗りを目指すのは、この時代奇特な人しかいません。

 

目先が効くとは、予見出来るということで、天気予報を行えるとか、叱られる前に逃げると言った事になります。

船にとって天気は非常に大事であり、台風を直撃すると本当に遭難してしまいます。

叱られる前に逃げるは言い方が変ですが、台風から逃げる、海賊から逃げる、ちょっと拡大解釈して衝突から逃げる、座礁を避けると言った風に先を見て危険を回避することが重要なことなのです。

 

几帳面、言わずもがな、几帳面であることは重要です。些細なことが起きると几帳面にメモを取る。それをずっとやり続けると、後々それが大変役に立ちます。大きな出来事が起きる前に悪ところを見つけることができます。

些細な事を見つけるにしても、常日頃整理整頓が必要になります。几帳面に清掃し整理整頓を行っておく。

几帳面・豆に連絡を取り合う。話をする、メールを送る、電話する、こう言ったことは重要です。

 

負けじ魂、これこそ何か、こう、船乗りの気質を表している様な気がします。

もともとこの標語は、軍人さんが作ったものですから、負けないということに重みがあります。

軍人でなくても、海運の船に乗っている船員でも、負けじ魂は持っている様に思えます。ここぞという時、すぐに諦めると言うことは負けになります。戦に勝つだけではなく、船酔いに勝つ、眠気に勝つ、などなど。

 

この標語、商船学校に入りたての頃、教官や上級生から教わり、そんなもんかなぁと思う程度。でも、船乗りをすると意味深い言葉に変貌するもので、妙に納得できてしまう。

 

学生それも一年生の時、

「スマートというのはだなぁ、カッコいいという意味と違うんあんやねかぁ。りこうちゅう意味なんや。わかぁんけ?」

「カッコいいちゅう意味と違うぁんけー」

 

「目先ちゅうのはダァ、予測を行えちゅうことや!」

「だから?」

 

「几帳面は清掃好きなことやぁ」

「でっ?」

 

「負けじ魂は、負けんちゅうことながやぁ」

「それだけなら、分かるわぁ。」

「今なら、一つでも分かればいいわぁ。」

 

こう言った会話一つひとつで船員が育成されていくのです。

 

アヘッドahead とアスターンastern

アヘッドaheadは、前進。

アスターンasternは、後進の意味となります。

 

この言い方は、国内外商船で使われています。

と言うより、今の世の中では、海上自衛隊以外で使われていると思うきっと。

では、海上自衛隊、それに日本帝国海軍ではどの様な言い方かと言うと、前進、後進となります。当たり前か。

海自の場合、最大戦速、前進微速、という指示の仕方となります。

 

商船では、フルアヘッドfull ahead、スローアヘッドslow aheadという言い方になるります。

ちなみに順番的には、ナビゲーションフル、フルアヘッド、ハーフアヘッド、スローアヘッド、デッドスローアヘッド、ストップエンジン、デッドスローアスターン、スローアスターン、ハーフアスターン、フルアスターンとなります。

 

船には、ブレーキが無いので、船を止めたい時には、後進をかけることになります。

 

でも、航行中、いきなり後進を何回もかけてしまうと機関・エンジンが壊れてしまいます。

 

通常は、徐々にエンジン・プロペラの回転数を下げていき、エンジンへの急激な負荷変動を与えない様にします。

 

でも、緊急時には、後進をかける場合があります。衝突を避ける、浅瀬に乗り上げる、落水者が出た時などです。

この時の指示をクラッシュアスターンcrash astern といいます。

クラッシュcrashとアスターンastern  壊す後進ということになります。

 

また、軍艦を含む船は、出入港・離着岸以外、アスターン・後進をかけません。

そもそも、洋上で後進をかける必要がないからです。

また、あまり長い間、後進をかけ続けるとプロペラが落ちてしまいます。

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ポートとスターボード

ポートとスターボードの組み合わせがわかる人は、船通であろう。

 

船のことを知らない人は、ポートを港としてわかると思うが、スターボードはさっぱりだと思う。

 

取舵(とりかじ)と面舵(おもかじ)を聞いたことがある人は、沢山いると思う。ポートとスターボードは、取舵面舵の英語版である。または、左舷(さげん)、右舷(うげん)としても使われる。

 

ポートは左であり、スターボードは右を指す。操舵号令では、船長や航海士が「ポート」と言えば「舵を左舷側に15度切れ。」という意味になる。

逆にスターボードであれば、舵を15度右に切れ。ということになる。

ハード・ポートと言えば、35度左に舵を切れ。スターボード・イージーでは、10度右に舵を切れ。となる。

ちなみに普通の船の舵は、35度までしか来ることができない。

 

日本海軍や海上自衛隊では、舵を切る際、取舵、面舵を使っているが、商船や漁船ではポート、スターボードが一般的である。

何故か?

外国の船も共通して使われているからで、おもかじやとりかじは、世界では通用しないからである。

 

 

船の話 序章

船というものは、車、そして電車や飛行機と違い、普通の人にとっては馴染みのない乗り物である。

 

一般の人に「仕事は船乗りです。」と言うと、決まって、何を捕っているのですか?あるいは、

何の漁ですか?と聞かれる。

一般の人から見れば、船乗り=漁師と認識されているのだろう。

 

一方で、古くから存在する乗り物であり、現代社会において必要不可欠な乗り物でもある。

何に対して必要なのか。

それは、人や物を運ぶ事である。

 

海軍は、何ゆえ必要になるかといえば、それは人や物資を運ぶ船、すなわち商船を護るためである。

 

過去も現在社会も、物資の輸送は重要な事である。それを担っているのは海運の商船である。

 

シーパワーと言う言葉がある。

イメージ的には海軍、海上保安などの軍事や警備などをイメージしがちであるが、海運も含まれ、国レベルにおける総合的な海の力として用いられる。その中には、水産や海洋研究なども含まれる。

 

そしてシーパワーの基本となるのは、軍艦、巡視船、タンカーや貨物船などの商船、漁船や調査船などの「船」である。

 

その船について、思いつくまま記述していこうと思う。